日記20141112 遺言書は難しい?〜遺言の執行をしてみて思うこと〜
遺言書を残そうと思われている方の中ではどちらかというと公正証書遺言よりも自筆証書遺言の方が人気があるようです。その理由は費用がかからない、面倒でない、すぐ作成できるなどの理由からですが、遺言書と言うのは書くことで終わりではなく、実現させてこそ価値があるものです。これを改めて感じさせる仕事が重なりましたので、日記に残してみました。
練馬区の行政書士の無料相談会に相談員として参加させて頂きますと、私の事務所への直接の問合せとはまた違った内容のご相談が多いなあ、との印象を持ちます。私の事務所へご相談は狭い範囲での質問や具体的なご相談が多いのに対し、無料相談会などで受けるご質問はザックリとした質問が多いと感じます。例えば「(質問)二男に不動産を残したいのだけれどどうしたら良いですか?」「(解答)それは遺言書を残すことで希望がかなえられますよ。」のような今から相続のことを考えたいと思われる方が入門編として無料相談を利用されているためだと思います。
無料相談会での相談内容は様々で、相続全般のこと、手続きの方法のこと、税金のことなどバリエーションに富んでいます。その中でも特に人気なのは遺言書の書き方です。ご相談の入口は税金や相続トラブルのことでも、その解決や対策に遺言書を残すことをお勧めすることもあり、無料相談では遺言書のご案内はとても人気かつ重要です。
遺言書については自筆証書遺言を残すことを希望される方が多いようです。初めから自筆証書遺言を残したいのだけれどどのように書けば良いのか、というご相談も多くあります。もちろんご相談ですので自筆証書遺言の書き方などをお伝え致しますが、最後には必ず「もし相続人がトラブルとなる恐れが少しでもあるのならば公正証書遺言をお勧めしますよ。費用はかかりますが、安心を得られることを思えば安いものだと思いますよ。」と付け加えます。
実は公正証書遺言をお勧めするのは少しためらいます。まず費用がかかりますし、手間と時間も必要です。行政書士がお手伝いをさせて頂くとその報酬も発生しますので、何だか無料相談の中で暗に営業活動をしている気分になってしまい、気がひけます。 それでも公正証書遺言をお勧めします。そしてお勧めするには理由があります。それは遺言の執行をする立場からみますと、やはり公正証書遺言の方が安心だからです。しかし、自筆証書遺言も公正証書遺言も法的な効力は同じです。なぜ公正証書遺言の方が安心だと思うのでしょう。
過去にこのような自筆証書遺言がありました(事実に基づき、フィクションも交えてお送りします)。「自宅は長男に譲る。お金は二男に譲る。」全文が自筆であり、証明押印もあり日付も記載されており、遺言書としては有効です。しかしこの遺言書を見た時にハッとしました。『自宅とは建物だけのこと?それとも土地も含めたもの?きっと土地も建物も両方のことだろう。しかし、遺言書の文章をそのまま読めば建物だけしか表されていないよなぁ。。。』 また、『お金とあるけど預貯金はどうなるのだろう。。。預貯金は法的には債権であり、お金とは現金だから、つまり、この遺言書は預貯金や株式は遺言されていないことになるなぁ。。。』
遺言書は遺言書に記載された内容がすべてです。この遺言書の内容はどのように読み取れば良いのでしょう。悩みどころです。
ほかにも遺言書を作成した理由は相続人の仲が悪く、話合いなんてできないだろうから、トラブルを避けるために遺言書が残されたのだろうと推測できるケースがありました。相続人の仲が良くないのは関係者の話しからすぐ分りました。しかし、遺言書の中に遺言執行者を指定していなかったため、金融機関からは「遺言書と相続人全員の署名押印と印鑑証明を持ってきてくださいね」と案内され、結局は遺言書があっても相続人全員の協力なしには手続きができないという困った状況がありました。
実際のケースではどのようにしたかは内諸ですが、一般的には初めのケースは遺言書に記載されていない財産につき遺産分割協議を行う必要があるでしょう。後のケースは相続人が協力できるような環境を整えるか、遺言執行者を選任することとなるのではないでしょうか。
これらのケースでは残された遺言書は有効だけれども、初めのケースは書き方が甘かったのですべての財産を網羅出来なかった、後のケースは遺言者が法的な知識と実務上の手続きを把握できていなかったためのトラブルです。他にも「預貯金の口座番号を書き間違えた」「土地を地番でなく住所で書いてしまった」などの書き間違い系のトラブルも実際に存在します。
それではこれらのケースですが、遺言書を残した人を責められるでしょうか?そんなことはできません。完璧な遺言書を残すのは難しいことです。それに遺言書を執行したことある人などそうそういるものではありませんので、このようなトラブルを予め気づける人はいないでしょう。そして遺言書の作成に十分な時間を裂くことができない人だって当然います。
このように実際に自筆証書遺言の執行などを行ってみると、無料相談ではやはり公正証書遺言をお勧めしたいなと改めて思います。これらの不安は公正証書遺言であればほとんどありませんし、遺言書の作成の時点で公証人からアドバイスがあることでしょう。
無料相談で公正証書遺言を進められた方々へお願いです。「行政書士はお金を使わせるような遺言書ばかりを勧めてけしからん!」などと思わず、公正証書遺言の検討を改めてしてみてください。そのアドバイスは過去の相続手続きの経験からのアドバイスですので、本当にご相談者様のことを思ってのアドバイスなのです。
なお、「自筆証書遺言は良くない」という例ばかり挙げ、自筆証書遺言を目の敵にしてきましたが、自筆証書遺言がなければ相続手続きが終わらなかったであろう例をご紹介します。
その方は子供がおらず、相続人は奥様と兄弟でした。しかし、ご兄弟が多く、総勢9名。代襲相続なども発生しており、相続人は全員で11名でした。その相続人は全国に散り散りで、互いに存在すら知らない方々もいらっしゃいます。正直、この相続において全員から署名押印と印鑑証明を集めることは不可能に近いと思います。
しかし、この方は奥様へすべての財産を相続させる旨の自筆証書遺言を残しておられ、また遺言書の中に遺言執行者も指定されておられました。この自筆証書遺言のおかげで相続人が11名もいるのに遺言執行者と奥様の証明押印のみで手続きはスムーズに行うことができ、今でもこの自筆証書遺言を残された方には感謝の気持ちでいっぱいです。
以上、自筆証書遺言についてのあれこれでした。自筆証書遺言が悪いわけではありませんが、やはり扱いは難しいと思います。しかし、「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」です。遺言書を残そうとしておられる方へ、遺言書のことを知ることで自身が満足のできる遺言書ができるようお祈りしています。