日記20150122 遺産分割協議と家族の力
遺産分割協議は相続人の話合いです。話合いがうまく進まなければ遺産を明確に分けることができず、宙ぶらりんになってしまいます。また、相続人の間で不信感が発生し、疑心暗鬼となってしまいます。それらの不安や不満が表に出ると「相続のトラブル」となってしまいます。そのような場合、第三者が間に立ち、法律を拠り所に話合いの交通整理を行うことが行政書士である私の役目だと思っておりますが、やはり人と人との感情が入り混じる遺産分割協議の場面では、法律では解決できない心の問題が付きまといます。このよう時、一番の力になるのは家族や親族の力かも知れない、そう思った仕事がありましたので綴ってみたいと思います。
<事情のある相続>
相続の手続きにおいて相続人は、多かれ少なかれ他の相続人との話合いに不安を持たれていると思います。共同相続人は親族の中でも子供や兄弟など自分に近い方であることが多いのですが、やはり長く生きていると親や兄弟でも親密を保っているということは大変なことです。親子でも不仲なことは全く珍しいこととではありませんし、兄弟であるとそれぞれ別の人生を歩まれており、普段の連絡をされていないと言う方が多いように思います。
冒頭にお話ししました件も相続人同士は親族の中でも近い関係の方々でしたが、様々な事情でお互いに不信感がありました。相続人は3名でAさん、Bさん、Cさんとしましょう。相続人のBさんは多忙であり、遠方にお住まいであったため、全員が揃うことができるのは数か月後という状態でした。遺産分割に関する話しは相続人の全員が揃うまでは話しを進めないという希望もあり、誰がどの財産を取得したいかなどの希望は遺産分割協議の予定日まで公開しないことにしました。
<遺産分割協議はこう進める>
いざ遺産分割協議が始まると、喧々諤々な議論が起こるのではと心配していましたが、皆さま落ち着いて話しをすることができました。しかし、遺産の額については折り合いがつきません。
本件に関わらず、私が遺産分割協議に参加したり、間を取り持つ場合は以下のように行います。まず事前に相続人全員の希望を聞きます。ここで様々な意見が出ますが、それらについて法的な意見を私がお伝えします。法定相続分を基礎として相続人の希望が現実離れしたものであるかどうかや、寄与分や特別受益については過去の判例や前例などを参考にお伝えします。ある相続人の主張にはちゃんと理由があるのであればそれを他の相続人に伝えます。人間話せば分る、と言いますが、こまめに情報や感情の伝達を行うと、それなりに分ってもらえるものです。また、法律についても誤解を生まないようにご説明させていただくことで、不満には思うかもしれませんが、皆様理性的に判断していただけます。
<法律でもはっきりしないこと>
しかし、相続とはこれらの努力ですべてが解決するのであるような簡単な話しではありません。私ができるのは意思疎通のお手伝いや話合いの交通整理、法律のお話し、そして遺産分割協議書の作成です。実は本件は法律のお話しがある程度までしかできない件でした。
本件は遺言書が残されていましたが、遺言書に記載されていた財産が、相続財産全体の一部であり、遺言書に記載されていない財産のみを遺産分割協議にて分割するものでした。遺言書には相続財産の一部のみしか記載されていないということは普通にあり得るように思いますので、この時点までは良いのです。しかし、残された一部の財産を互いに相続分の異なる相続人が分け合うとなると、少しやっかいです。
相続財産の全体を法定相続分で分けるのは「法律」なのでしっかりとした根拠があります。つまり、皆様納得がいきやすいのです。しかし、相続財産の一部のみを、法定相続分の異なる相続人のうちの一部の方のみで分けるとなると、「はい、あなたは○分の○、あなたは●分の●」とすっきり考えることができません。
本件でもこのような事情で法律でもすっきりと考えることができず、遺産分割協議で分けるべき部分の財産は相続人の話合いによらなければならないこととなりました。しかし、法律のよりどころのない話合いは結論が出づらくなります。第三者からすると些細なことも当事者にはとても大切なことである場合があります。このような大切なことは簡単に法律をあてはめることはできないことばかりです。また、それらの当事者にとっての重要なことをひとつひとつ考慮すると、話合いは進みません。
本来はとても困った事態です。こう着状態です。しかし、ここで大きな力が働きました。家族の力です。
<家族の力>
遺産分割協議は数日間を予定しておりましたが、その予定された日を逃すと皆様の都合を考慮すると次回の話合いは数か月後となってしまう状況でした。話合いが決まらなければ翌日に持ち越す予定でしたが、予定内に遺産分割協議書の作成や署名押印などを考慮すると、なるべく早めに話しを進めておく必要があると考えておりました。そのため初日の段階でこう着状態で終わらせるわけにはいかず、何らかの方向性だけでも決めておきたいと思っておりました。しかし、相続人のおひとりから続きは翌日にしたい、との提案があり、初日の協議は終了しました。
私は初日の終了の提案をされた相続人の方に考えがあるのだと思いましたし、実際にその方より、個別にAさんを説得をしてみる旨を伝えられました。私は一晩お任せしようと思いました。
翌日、改めて相続人全員が集まりました。そして協議が始まったらとたんに纏まりました。個別の説得がAさんを動かした結果でした。説得された内容はお聞きしませんでした。しかし、話しが纏まった時点で私はとても感動を覚えたことを忘れません。やはり家族の力だな、と思いました。遺産分割協議に第三者(本ケースは私)立会い、法的なアドバイスを行うことは有効だと思います。しかし、本ケースの解決は家族の力が決め手であり、また家族の力がなければ円満とは行かなかったでしょう。
私は行政書士であり、相続人からしたら第三者です。第三者にしかできないことは何かを考え、遺産分割を解決するために必要なサービスを提供して行きたいと思います。しかし現時点では私の力不足により、家族の力を超えるサービスを提供することは困難なのだと思い知らされました。もっともっと経験を積み、知識を得れば家族の力を超えことはできなくとも、それに近づけるようなサービスのご提供がでいるようになるのでしょうか。私はそれを信じ、そしてそれを目指して努力していくことしかできません。
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