日記20151203 はたして認知症の方は遺言書を作れるのか
当事務所へのお問い合わせの中でも多いご相談に「認知症でも遺言書は作成できるのですか?」というものです。お電話での問い合わせであれば質疑応答がその場でできるため、少し詳しくお話しできますが、メールでのお問合せでは状況が把握し辛いこともありますので、詳細なご案内が難しいことがあります。しかし、このお問合せに対しての回答はおおむね以下のような結論となってしまいます。
「認知症でも遺言書は作成可能ですが、場合によっては作れないときや、作らない方が良いときもあります。」
結論であるのに曖昧で申し訳ありませんが、お問合せの時点ではこれが精一杯の回答です。もちろん詳細な状況については個別にご回答できるのですが。
こちらは認知症であるが遺言書を作成したいとご希望される方が参考になればといくつか書いてみます。しかし、基本的には私自身の考えであったり経験であるため、結局は個別の判断が必要なことはご注意ください。
◆まずは基本
まずは認知症であれば遺言書ができるかどうかを考える前に、基本的な遺言書の知識を簡単にご説明します。遺言書は15歳になれば残すことができるという法律になっています。そのため、15歳になっていない方は遺言書を残しても無効です。
15歳になれば遺言書を残しても良いという法律であるため、それを認知症の方に当てはめると、遺言書を残すには認知症である方が現在、15歳の人が持っている程度の判断能力が必要だと言えるでしょう。(しかし、15歳程度の判断能力がどのくらいなのか?ハッキリとした物差しがなく、結局のところは遺言書を作成するときには困ってしまいます。。)
◆遺言書の有効/無効と裁判
ところで、よくあるお問合せのなかに「有効な遺言書はできますか?」や「この遺言書は有効ですか?」というものがあります。例えば自筆証書遺言なのに署名がない、自書ではない、などの明らかに要件が不足しているものでなければ、おおむね以下のような回答となってしまいます。
「要件がそろっていれば有効ですが、裁判の結果により無効となる場合もあります。」
これは、要件がそろっている遺言書は有効とし法的な効果も発生しますし、金融機関や登記所なども手続きが可能です。しかし、その遺言書を不満に思う相続人などがもし裁判をおこしたとき、その結果次第では無効となってしまう可能性もあります。無効となれば最初から遺言書などなかったのと同じ状態になってしまうのですから、根底から覆されてしまうような事態です。
そのため、遺言書を作成する時点では、全く疑いのない完璧に有効なもを作成するということは、意外に難しいことなのです。
これをすごく極端に言うと、「遺言書を作成した時点では誰も有効か無効かを判断することができない。」ということだと思います。シュレーディンガーの猫のようで気持ち悪いのですね。。
しかし、遺言書を作成する時点では、なるべく有効な遺言書を作成するための努力しすることしかできない、ということは間違いありません。なるべく無効とならないように準備をして遺言書を作成すれば、裁判でも簡単には無効とならないでしょう。また、遺言書の作成の時点で裁判やトラブルにならないような工夫をし、無効の機危険性を下げる努力も考えられます。そして、裁判(トラブル)になってしまう危険性のある遺言書はそもそも作成しない方が良いかもしれない、という選択肢もを視野にいれることも大切です。今まで、結果的に曖昧な遺言書が残されてしまったがためのトラブル、というものも見てきました。
◆認知症とのご申告(ご家族の方より)
「認知症だけれど遺言書は作成できますか?」のお問い合わせは、遺言書を残される方のご家族からされるケースがほどんどです。私はご家族からのお問合せについては問題はないと思っています。遺言書を残される方は高齢であることが多いので、自分ひとりですべての手続きをすることは困難です。家族の力を借りることは当然だと思います。
(もちろんその中には認知症の親の財産を遺言書によって自分のものにしてやろう、と考える方もいらっしゃるかと思いますので、この点は面会のときに気を付けています。)
さて、ご家族の方からのご申告である「認知症」とは意外にあてにならないものです。しっかりと診断書があり、長谷川式簡易スケール何点、と客観的にお伝えいただくことはあまり多くありません。年相応の物忘れ程度である場合でも、ご家族は認知症であると思っていたりますし、他者とのコミュニケーションが取れない程の場合でも、軽い認知症とのご申告の場合もあります。そのため、認知症とのご申告の際は、先入観を持たず、フラットな気持ちでご面会させていただきます。
ただ、遺言書を残したいという気持ちがご本人にある場合は、なるべくその気持ちを尊重しなければなりませんので、認知症かな?との疑いがあっても、まずは本人の気持ちに従い、なるべく遺言書を残す方法はないかと模索していただくことが良いと思います。
◆実際にお会いしてみて
認知症であるとの申告がある方でも、ご本人が遺言書を残したいとお希望される場合は、積極的にご面会をご提案いたします。まずは本人の気持ちや考えを聞かねばなりません。そして、遺言書を作成できるかどうかの様子を見なければなりません。
実際にお会いしてみると、電話やメールでの問い合わせでのご申告ではわからなかったことが本当に良く把握できます。ご本人の遺言書に対する考えや、ご家族に対する思い、コミュニケーションがどの程度とれるのかなど。やはりお会いするのが一番です。
ここで私もご本人の遺言書に対する考えなどをお聞きするとともに、この方が遺言書が作成できるのかどうかを探っていかなければなりません。ここで大切な点は、ご本人が有効な遺言書が残せるかどうかの判断をするのではない、と言うことです。あくまで、手続きに耐えられるかどうか、のちにトラブルになる可能性はあるだろうか、もし作成したとして私自身の良心に反する点はないだろうか、などを探ります。
お会いした結果、過去のケースと照らし合わせると、遺言書が作成できそうかどうかが、私の中の基準ではありますが、判断することができます。もちろん場合によっては複数回の面会をさせていただきます。改めて、私の判断基準は有効は遺言書を作成できるかどうか、ではなく、複合的な判断となりますし、作成するか否かの結論を出すのはご本人であり、またその結論にはご家族のサポートも必要です。
◆遺言書の作成をお勧めしないこともあります。 (でも、できないと決まったわけではない)
面会の結果、遺言書の作成をお勧めできない場合もあります。そのような時はその考えをしっかりご説明させていただき、ご理解いただきます。もちろんそれでも作成したいとのご希望であれば私が止めることはできませんが、私がお手伝いはさせていただくことはお断りさせていただく場合もあります。
遺言書の作成をお勧めできない原因の大きなもののひとつは、ご本人が第三者との間でコミュニケーションが取れないという理由です。これは会話が成り立たないという場合もありますので、このようなときは公正証書を作成する際、公証人との会話も成り立たなければそもそも手続きができません。遺言能力の問題よりも手続き上の支障となります。
会話はできますし、自身の考えも発言できます。しかし、いまいち真意が伝わってこないということがあります。このような時は悩みますが、私自身の良心として、自筆証書遺言の原案の作成などはお断りすることがあります。何度も申し上げますが、私が遺言書を作成する能力を否定したり判断したりするのではありません。しかし、本人の本心について確信を得られないにも関わらず、遺言書の作成のお手伝いをすることは、私の良心としてできないためです。
◆最後に
遺言書は「ご自身の最後」を見据えた方が作成される書類です。遺言書を作成したいと思われる方はその覚悟ができている方だと考えています。そうであれば、私はその気持ちをできるだけ叶えていただきたいと考えています。
認知症であると思われる方、診断された方でも、症状などによっては問題なく遺言書は作成できます。認知症であること、認知症の疑いがあることだけで諦めることはありません。
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