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作成された自筆証書遺言をみると遺言執行者が指定されていない遺言書が多くあります。確かに遺言書に記載された事項は法的効果を持ちますが、実現されなければ絵に描いた餅です。自身の希望に法的効果を持たせる遺言書にあとひと手間加え、遺言執行者を指定した、遺言の実現まで配慮されたより良い遺言書を作成してみましょう。
また、遺言者が亡くなり、遺言書を実行する時点で遺言執行者が指定されていないことに気付かれた場合、後からでも遺言執行者を選任することができます。遺言の執行に行き詰ったら遺言執行者を選任しましょう。
遺言書の内容と遺言執行者の職務
以下に遺言書に記載できる事項をあげてみます。そしてその遺言事項を3つのパートに分けています。
A | 1、認知 2、相続人の廃除 3、一般財産法人の設立 |
B | 4、遺贈 5、信託の設定 6、遺産分割の方法の指定 7、生命保険の受取人の指定・変更 |
C | 8、未成年後見人・未成年後見監督人の指定 9、相続分の指定・指定の委託 10、遺産分割方法の指定・指定の委託 11、遺産分割の禁止 12、共同相続人の担保責任の減免・加重 13、遺贈の減殺方法の指定 14、遺言執行者の指定・指定の委託 15、特別受益の持ち戻しの免除 |
A〜Cの3つに区分してありますが、それぞれ以下の様な区別となっています。
A:執行が必要である。また、遺言執行者のみが執行できるもの。
B:執行が必要ではあるけれど、遺言執行者でなくても(相続人でも)執行できる。
C:執行の余地はない。
この「執行」とは『遺言書の実現のために手を下さなければならない。』ということです。「C」の執行の余地がないとは、遺言書が効力を持った時点(遺言者が亡くなった時点)で法的効力が発生し、その瞬間に実現したとみなされるものです。
それとは逆に「A」と「B」は遺言書が法的効力を持っただけでは不十分で、遺言書の実現のために何らかの手を下さなければならないものです。良い例がAに分類されている事項ですが、「認知」や「相続人の廃除」は遺言書で意思を残してもそれがそのまま実現するわけではなく、その旨を家庭裁判所に審判の申立てをしなければなりません。その結果、審判の結果で実現しないこともあり、特に相続人の廃除を認める審判は下りにくいでしょう。つまり、AとBは何らかの手を下さないと実現しないものです。
誰が実現(執行)するのか
遺言書が残されていたとき、その遺言書に従って名義変更などを行うことで遺言書の実現をしていきます。この遺言書の実現を実際に行うのは相続人や受遺者、または遺言執行者です。相続人や受遺者の場合は相続財産を相続する直接の関係者となります。しかし、遺言執行者は相続人や受遺者のだれかがなっても良いですし、また第三者(信頼できる親族や友人、法律の専門家など)がなっても構いません。
なお、遺言執行者が決められた場合、遺言の執行・実現のための権限が相続人や受遺者から遺言執行者に移りますので(次項参照)、遺言の執行・実現は遺言執行者が行うこととなります。もし、遺言執行者が決められていなければ相続人は等しく執行の権限があり、受遺者は相続人の協力を得て実現することとなります。
遺言執行者の権限
遺言執行者は「相続財産の管理とその他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利」を行使することができます。簡単にいいますと、遺言書の内容を実現するために必要な権限を持っており、逆に他の相続人は遺言執行者がいるのに自分で勝手に遺言書の執行をしても、その行為は無効であるとみなされてしまいます。そのため、遺言執行者が決められている場合は遺言執行者のみが遺言の執行をすることができるのです。
遺言執行者がいると助かるケース
遺言執行者がいると良い例ですが、大抵の遺言書では執行者を定めておいた方が何かと便利です。しかし、相続人の間で少しでもトラブルになるかもしれないと思われるときはぜひ遺言執行者を指定しておくことをお勧めいたします。
例えば、「◎◎銀行の貯金は二男と三男で半分ずつ相続させる。」と言う遺言書の場合です。遺言書としては有効ですので法的にはこの通りの効果が発生します。そのため、二男と三男はこの遺言書通りに貯金の名義変更をしたいわけです。しかし、金融機関は遺言書に二男と三男に預金を分けると書いてあっても、名義変更の際には相続人全員の署名押印がされた書類を要求します。このとき、長男は自分は貯金を相続できないことが分っているので、署名押印を渋ることが予測でき、これにより遺言書の実現に壁が立ちはだかることとなります。
こんなときに遺言執行者が選任されていれば、遺言執行者の権限で手続きを進めることができ、金融機関も二男と三男の署名押印だけで認めてくれることがあるのです。
(注!)金融機関のルールによりこの例の限りではありませんので、手続きの際は必ず確認が必要です!
遺言執行者の具体的な仕事
<金融機関の例>
金融機関では名義変更の際、遺言書にて預貯金を相続する方以外の相続人全員の署名押印を求めてきます。また、押印は実印で印鑑証明書の添付も求めてきます。しかしこれでは以下の様な場合には遺言の内容の実現を進めることができず、困ってしまいます。
・相続人が多数おり、全員から署名押印を貰うことに手間と時間がかかる。(印鑑証明の期限は概ね3ヶ月であり、その間に揃えなければならない)
・相続人が遠方におり、意思の疎通が難しい。(特に海外在住などの場合はとても大変です。)
・相続人の間でトラブルなどがあり、署名押印を貰えない。(説得できなければ永遠に手続きができません。)
このようなときは遺言執行者が選任されていれば遺言書と受遺者だけで手続きが可能です。 相続人の協力がスムーズに得られない場合は遺言執行者の権限がとても大きな意味を持ちます。
(注!)それぞれの金融機関には独自のルールがあり、すべてがこの例の限りではありませんので、手続きの際は必ず確認が必要です!
<不動産の遺贈の例>
不動産を相続人以外の人に遺贈した時、名義変更の登記の手続きが大変です。なぜなら、相続人全員が登記義務者となり、全員の署名押印が必要となるからです。相続人以外の人が不動産を取得することに不満を持つ相続人が一人でもいれば名義変更ができず、また相続人以外の人に遺贈された不動産は登記が対抗要件となりますので、遺贈の登記がされる前に別の登記がされてしまうと所有権を主張できません。
しかし、遺言執行者がいれば、遺言執行者は遺言書の実現のための権限があるため、相続人の代わりに登記義務者となり手続きをすることが可能です。
遺言執行者の選任の申立て
手続きに困難が予想されるのに遺言書を開けてみると遺言執行者が指定されていなかったときでも諦めることはありません。遺言執行者は遺言書が効力を持った後でも選任することが可能です。選任方法は家庭裁判所への申立てを行います。家庭裁判所が認めれば遺言執行者が選任され、その後は遺言執行者が遺言の執行の権限をもつこととなります。
遺言執行者に関するサポート
当事務所では遺言書の作成と遺言書の執行のお手伝いをさせていただきます。せっかく遺言書を作成するのであればより良いものを作成したいものです。遺言者の希望に沿ったより良い遺言書作りをサポートさせていただきます。
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