比べてみました遺言書

通常時に行われる遺言には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言と3つの形式がありますが、悩みどころは自分で書く「自筆証書遺言」か、公証役場で作る「公正証書遺言」か、どちらにしたらよいのだろうか?と言う事です。こちらでは主に利用される自筆証書遺言と公正証書遺言のそれぞれの長所と短所と特徴を比べてみました。

 

※遺言書とは

まずは遺言書のご説明です。遺言書とは生前に自身の財産等についての希望を残しておけば自身が亡くなった後にその通りに財産が分割される法的効力を持つ文章です。遺言書に法的効果を持たせるにはそれぞれの要件を満たさなければなりません。

また、自筆証書遺言は自分の手で自書するもので、公正証書遺言は公証役場にて公証人に作ってもらうものです。

遺言書の基本はこちら

 

  • 法的な効力」 を比べてみました

自筆証書遺言と公正証書遺言で法的な効力に違いがあるのでしょうか。もし違いがあれば効力の違いを考えて選択しなければなりません。

答えは、、、違いはありません。実は自筆証書遺言も公正証書遺言も法的な効力に違いはありません

そのため、内容が同じであれば法的効力の点からみれば自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらを選択しても変わりはありません。

 

 

  • 記載できる内容」 を比べてみました

自筆証書遺言と公正証書遺言とで記載できる内容は異なるのでしょうか。遺言書に記載できる事項は決まりがありますが(こちらの「遺言事項」参照)もしこの事項以外の遺言をしても法的な効果は与えられません。

答えは、、、自筆証書遺言も公正証書遺言も記載できる事項に違いはありません

遺言事項に沿った内容の遺言書であればどちらも法的効果が与えられます。なお、遺言事項にない事柄を記載しても遺言書が無効となる様な事はありませんので、ご自身の気持ちや考えなども記載(付言事項といいます)しても構いませんが、その部分に関しては法的効果が発生しない事を自覚して記載することが望ましいと言えるでしょう。

 

 

  • 「作成する手間と時間」 を比べてみました

自筆証書遺言と公正証書遺言とで作成にかかる手間と時間はどうでしょう。こちらは大きく異なりますのでしっかり比較が必要です。
 

  • 自筆証書遺言

自筆証書遺言は自分で文書を書くだけであり、要件を満たすにも日付、署名押印のみですので、最低限の遺言書を作成するだけであればほとんど手間はかかりません。自分の手で自書する必要があるため、文字を書くことが苦手であったり、手が不自由な方には大変な手間と時間がかかるかもしれません。しかし、その手間と時間以外はこれといった手間などはありません。

あえてその他に必要な手間と時間を考えてみますと、遺言書は法的効力が発生する文書ですので、最低限の法的知識を得た後での作成が必要だと考えられます。そのために予め情報を収集する手間と時間は必要ではないかと考えられます。また、誤解のないような文章での遺言書をなるとそれなりの文字数となりますし、書き損じた場合の修正は法律による方法に従うか、全ての書き直しが必要ですので、この辺りを法的な知識から相続人のトラブルの防止、また実際の作成までを考慮するとそれなりの手間と時間が必要となるはずです。
 

 

  • 公正証書遺言

こちらは公証役場に出向き公証人に遺言書を作成してもらうため、最低でも2回は公証役場に出向く必要があります。近場に公証役場が無ければ大きな手間ですし、外出が困難な方には大きなハードルとなります。また、公証人が遺言者やその財産について把握するため必要な書類を提出する必要がありますし、作成本番では証人が2名必要です。そのため、それらの書類の収集、公証役場へ出向くこと、証人2名などを考慮すると、最低限の内容のものでも自筆証書遺言と比べてどうしても手間と時間は大きくなります。

 

 

  • 作成にかかる費用」 を比べてみました

作成にかかる費用は大きく変わります。この費用のみを考えると公正証書遺言を選択する事を躊躇してしまいますが、その他の事項を比較して総合的に検討して頂きたいと思います。

 

  • 自筆証書遺言

自筆証書遺言は紙とペンさえあれば作成可能です。事前に遺言書の事を勉強するための書籍、相続人や財産に関する資料を集めたとしてもそれほど大きな額にはならないでしょう。

 

  • 公正証書遺言

公正証書遺言は公証人に支払う手数料がかかり、最低でも数万円が必要です。手数料の明確な額は遺言書に記載する財産の額と何人に相続させるかにより変動しますので一概には言えませんが、東京23区内で不動産を所有する一般的な家庭の方でも4万円~7万円くらいはかかるのではないでしょうか。

 

 

  • 遺言書の書き直しと破棄」 を比べてみました

遺言書は一度作成した後でも自身の考えが変われば書き直しや破棄などが可能です。書き直しや破棄が可能である事は自筆証書遺言と公正証書遺言で変わりはありません。しかしその方法に注意が必要です。
 

  • 自筆証書遺言

自筆証書遺言での書き直しは改めて自書にて書き直した自筆証書遺言を作成したり、また以前作成した自筆証書遺言書を破棄する場合は手元に保管してある自筆証書遺言を破いて棄てればよいので、あまり手間はかからないでしょう


 

  • 公正証書遺言

こちらは書き直しのためには改めて公証役場にて公正証書遺言を作成する必要があります。また、破棄についても手元の公正証書遺言の謄本を破いて棄てたとしても原本が公証役場に残っており、遺言自体は有効なままですので、破棄についても公証役場にて手続きが必要であり、それなりの手間と時間が必要です。

→ 遺言書の取り消しについて

→ 遺言書の書き直しについて

 

  • 無効の危険性(遺言書の信頼性)」 を比べてみました

遺言書に法的な効果を与えるためには法律にて定められた様式に従った遺言書を作成しなければなりません。もしその様式から外れた場合は無効な遺言書となってしまいます。それでは相続人、受遺者及び第三者(金融機関や法務局など)に対する信頼性はどうでしょう。
 

  • 自筆証書遺言

すべて自分の判断で作成する自筆証書遺言は無効とされる危険性が否めません。署名押印がない、日付がない、自書していない、などの基本的な要件の不足で無効となってしまう事もあるでしょう。また、法律に定められていない事項、法律に沿わない希望を遺言書に記載してしまうなどで有効とみなされない遺言書となってしまう可能性もあります。また、数字などの単なる書き損じでも無効な遺言書とみなされてしまう場合もあります。

また、表現方法から有効とされない場合もあります。極端な例ではありますが『上の土地は長男、下の土地は次男』とだけ記載された遺言書について、家族の間では「上の土地」「下の土地」でどの土地かが通じたとしても、客観的にどの土地なのかが確定できなければ遺言書の実現が困難になる可能性がありますし、この記載だけでは「相続させる」意思があるのかどうかが客観的に判断できませんので注意が必要です。

 

  • 公正証書遺言

こちらは公証人は作成するため無効となる可能性はとても低く安心です。公証人は法律の専門家で法的な部分での間違いは非常に少ないと言ってよいでしょう。様式もしっかりチェックされで作成されますので自筆証書遺言のような心配は不安はありません。

自筆証書遺言では「無効なのではないか」との不安が発生する場合が多くあるのですが、公正証書遺言では有効であることを前提として取り扱って良く信頼性が高いものです

(しかし、公正証書遺言といえども後の裁判等では無効となる可能性もありますのでご承知置きください。)

→ この遺言書は有効?無効?どう判断する

→ 自分で書く遺言書の怖さ

 

  • 執行のための手間と費用」 を比べてみました

 遺言書は遺言者が亡くなった後に遺言書に従って執行されて初めて実現します。この実現にも違いが発生しますので注意が必要です。残された人の手続きにも気を配るのであればそれぞれの違いにを把握しておきましょう。

なお、自筆証書遺言にも公正証書遺言にも遺言執行者と言う遺言の実現のために権限を持った人を決めておく事ができ、この点はどちらの遺言書にも変わりはありません。
 

  • 自筆証書遺言

自筆証書遺言は「検認」が必要です。検認とは相続人に遺言書があった旨、内容、開封など公平を保つために裁判所が行うものです。遺言者が亡くなったら遺言書を保管する人は裁判所に検認の申立てを行う必要があります。検認に申立てには必要書類を集める必要があり、相続人が多い場合は大変な手間となりますし、また申立てから検認が行われるまでに1ヶ月~1ヶ月半の時間がかかります。この検認をしなければ各機関(法務局、金融機関等)は手続きを受付けてくれないため、遺言の実現までに時間がかかってしまいます

また、遺言書の内容が曖昧な場合(前述「◆無効の危険性(遺言書の信頼性)」の自筆証書遺言の欄を参照)、各種機関でそのままでは受付けてくれない場合があり、追加で相続人からの署名押印をした遺産分割協議書や申述書などを要求される可能性があります。

 

  • 公正証書遺言

こちらは公証人が作成し信頼おける遺言書であるとの理由で検認をする必要はありません。そのため遺言者が亡くなったらすぐに実現のための手続きを取る事が可能です。また、記載の内容が曖昧という事はありませんので、基本的には公正証書遺言のみで手続きを進めることが可能です。(内容によっては遺産分割協議書が必要になる場合もありますが、そうしたくない場合は作成の時に公証人に伝えると良いでしょう。)

→ 遺言書をより確実に実行させるために

 

  • 言書のご相談

当事務所では遺言書作成のサポートを行っております。自筆証書遺言では原案作成、チェック、法的効力のレクチャーなど、また公正証書遺言においては公証役場との調整を行い出向く手間を省き、細かな相談に乗らせて頂きます。

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